「火星に水」証拠つかんだ米探査車、

15年の活動終える 　―その功績をたたえてー

（以下は2019/2/21 付け日本経済新聞　電子版を基にして要約し、書き替えたものです）

米航空宇宙局（NASA）が２月13日、15年間にわたって火星を調査してきた探査車「オポチュニティー」号の活動を終了すると発表しました。昨年、火星で発生した大規模な砂嵐の影響から回復できず修理は断念されました。しかし幾度かの故障などの困難を乗り越えた長年の調査で、火星の地表にかつて大量の水があった証拠を見つけるなど、火星の歴史を塗り替える大きな成果を残した功績は偉大です。以下はオポチユニティ号が地球に営々と１５年間送り続けた写真のほんの一部です。

「火星の科学に飛躍的な進歩をもたらした」と火星に詳しい東京大学教授の宮本英昭さんはオポチュニティーの成果を高く評価、2003年7月の打ち上げ当初、3カ月と予定されていた活動期間は大幅に延び、約45キロメートルを走破。この間に地球に21万7千枚以上の画像を送信し、52個の岩石の表面を磨いて鉱物を分析するなどしました。

特筆されるのは、火星表面にかつて大量の水が存在したことが確実と考えられるようになったことです。



火星の表面に写ったオポチュニティーの影（2004年7月26日）=NASA・米カリフォルニア工科大学提供

まず04年1月に着陸した火星の赤道付近のメリディアニ平原で赤鉄鉱（ヘマタイト）と呼ばれる鉱物を発見しました。この地球ではありふれた鉱物ですが、火山活動でできることもあるが、湖など大量の水の底にたまることが多い

鉱物です。

また着陸地点から30キロメートル以上移動して着いたエンデバー・クレーターの縁では、11年に石こうの鉱脈を発見しました。幅は1～2センチメートルで長さは40～50センチメートルで、岩盤の中に埋まっており、地面の裂け目を水が流れたときにできたとみられています。石こうは酸性やアルカリ性の強い水の中では作られず、生物が存在するのに適した中性の水の中で出来ます。

他にも球のように固まった鉱物や層状構造の地層なども発見。どれも火星の表面に液体の水が長期間存在したことを示しています。「かつて液体の水が大量に存在したことに対する最初の確定的な証拠だ」と宮本教授は説明します。

火星を周回する別の探査衛星からの精密な観測や、12年に火星に着陸した探査車「キュリオシティー」などの成果も加わり、太古の火星は地球と同じように海に覆われていたと考えられています。表面は乾燥しているが、現在でも地下には大量の水が存在する可能性が高いと期待され、水を確保する有人の火星探査を進める推進力にもなっています。火星の様々な風景を捉えた数多くの画像をみて、人々が火星への関心を高める効果も大きかった。

オポチュニティー号は双子の探査車「スピリット」とともに03年に打ち上げられ、04年1月に火星着陸した。3週間早く着陸したスピリットも計画より長期間活動したが、砂地から脱出できなくなったあと11年5月に活動を止めました。

記者会見でオポチュニティーの状況を説明するプロジェクト担当者（2月13日）=NASA・米カリフォルニア工科大学提供

オポチュニティー号も何度も危機に見舞われたことがあります。05年には砂丘に車輪が埋まって動けなくなり、1カ月以上も試行錯誤してやっと脱出しました。6個の車輪の一部が壊れたり、コンピューターを再起動したりしなければならないトラブルに見舞われたこともあります。

困難を乗り越えて活動を続けたオポチュニティー号ですが、最後は昨年の18年6月に発生した大規模な砂嵐の影響から遂に回復できませんでした。動力源の太陽電池が砂嵐の影響で発電できなくなり活動を停止、地球との通信もできなくなりました。

NASAは砂嵐が収まってから復旧を試みました。火星を回る別の探査機がオポチュニティー号を発見、地球からは800回以上の指令を送信しました。

12月から1月にかけて火星では強い季節風が吹くため、太陽電池パネルの表面を覆う砂ぼこりなどが吹き飛ばされれば回復するのではないか、という期待もありましたが、これまでにも季節風の後に砂が吹き飛ばされ、発電量が回復することもありましたが今回は遂に回復できませんでした。

オポチュニティー号は活動を止めましたが、着陸から6年以上たつ別のキュリオシティー号は現在も活動を続けています。アメリカや民間企業のスペースXは有人の火星探査も計画中です。オポチュニティー号は火星探査の先駆けとして長く記憶に残ることでしょう。