中学生になる前は近くの広場でやる草野球に夢中で、その勢いで新制中学に入った時野球チームに入った。母が帯芯のゴワゴワ白地をほぐして、それらしい野球用の白のユニフォームを作ってくれた。千葉宜嗣さんも同じチームだった。ボリュームで半分くらいの私だったがチームに入ることはできた。誇らしかった。


始めて練習に立った時ひときわ小さかったのでライトに回された。大好きだった桂先生が、「おーいライトに行くぞ」といってノックされたボールが、まともに来た。今でもそのボールの勢いを覚えていて、自分にむかって真正面に飛んでくるのに、怖ろしくなって逃げた。折角母が作ってくれたゴワゴワのユニフォームもそれでお終い。爾来スポーツとは縁切れになった。

 

20年近いブランクの後、縁切れだったスポーツに私をつないでくれたのがゴルフだった。

東芝生活の10年目、地方の拠点工場だった太子工場のブラウン管製造部の技術課長になっていた頃だ。上司の部長に連れていかれたのが、姫路のある下請けの金属加工会社だった。わけわからずにその会社が作っていたゴルフのハーフセットとゴルフシューズを持たされた。家に持って帰るわけにはいかず、車のトランクに忍ばせた。そのころはゴルフなど有閑経済人がやるもので、罪深いものという感覚があった。

クラブを碌に振り回したことなく、いきなり青山ゴルフ場に連れていかれた。それは姫路と太子町の間の山間地にあった。地面にさしたピンにのせたボール、これを打てという。野球のボールは飛んでくるのをバットに当てるのだが、これは地面にじっとしているのだから簡単だわと思いながらビュンとクラブを振った。おやボールはじっと座っている。そんな馬鹿なと思い2度3度振ったが、4度目にかすって前にちょろと動いた。それがわがゴルフの事始めだった。

練習場というのを教えてもらった。そこの先生は右片腕の無い若い方だった。それでもびゅんびゅんと正確に飛ばす。ゴルフは左腕でやるものと悟った。それはいい教訓だった。（いまも右が頑張って作用するとミスショットになる。）姫路工場での8年間部課長ゴルフ会ですっかり鍛えられた。7年目で優勝した。その時のスコアは102、みな下手だった。何度も行った書写山コースは1番が、まっすぐな登り、ティーショットが落ちる辺りの並木にカラスがたむろしている。そして転がってくるボールをくわえて逃げる。大声で抗議しながら追いかけるが無駄だ。ノーペナルティでそこから打つのがローカルルールだった。

川崎本社工場に戻った時、その頃オープンしたパレスクラブに入れと誘われた。函南と根府川に二つのコースがあって100万円だという。下見にプレーしたがどちらも芝生もよく生えてない荒れ地だった。そのうちそれぞれが分離したころ根府川の小田原城カントリーに100万円で入った。ただし80万円はやめる時返却するので実質20万円ということだった。東芝は部課長クラスでも安月給だったので、それは思い切った浪費だった。世間では二桁以上違う会員権が相場だった。それ以来小田原城カントリークラブがわが故郷になった。

 

東芝マンが大勢はいっていたので、オクトーバ会という会を作った。オダワラジョウカントリオブトーシバを略した名前だ。上は常務から平社員まで30名くらいの大所帯。年いちど10月にコンペを開くのに予約がたいへんだった。

 

そのころ作った和歌がある。

2006-11-9　オクトーバ　ゴルフ会１１月例会

風強く快晴で、空も海もブルー一色。小田原の町はむろん克明に見えたし、三浦半島の上に房総が重なって見えた。

早川の　山より下をながむれば　一夜城と小田原は　ただ指呼の間。

相模の海は　濃さまだら、はるかに三浦、その先に木津

赤い旗　へんぽんとして　立ち上がる　平家しのばる　先の組ホールアウト

 

ともかく晴天なれば相模湾を見降ろす絶景がある。東京の新宿池袋の高層ビル群はもとよりスカイツリーが見えたと大騒ぎすることもできる。しかし標高800mの山頂で、風が吹きだすと大変だ。パッティンググリーンで自分も飛ばされぬように踏ん張っていてもボールが動き出すくらいだ。予約を取るのも大変で、コース途中の売店で5組も6組もたむろして、2時間のコースタイムなど守ることはまず無理だった。

 

そのような姿は20年も続かなかった。我々のオクトーバ会も参加者が徐々に減少し、年次コンペは中止。逆に毎月10名くらいのノースコア会になった。小田原城カントリークラブも経営難となって、一度は解散となった。会員権の80万円は返却される契約だったが、おじゃんとなった。幸いゴルフ場は出版会社の文芸社が買い取ってくれて再開できた。なかなかいいセンスの経営をしていて、「天空のゴルフ場」という宣伝で盛り返している。

 

我々のオクトーバ会は細々と続いていて、参加者は4～8名だが毎月第2木曜日予約なしに集まって出来るようになっている。私は去年の11月から膝を痛めて参加できなくなっている。暖かくなった3月には、あの天空のゴルフ場に舞い戻りたい。