久しぶりでドイツ映画を見ました。

2019-8-17　野口幹夫

妻が茅ヶ崎のタウンニュースを見ていて、この映画見に行こうと声を出しました。「樹木希林さんが茅ヶ崎館の女将で出る遺作だそうよ」。

昨日の昼、近くのイオンシネマに行きました。さすが地元ゆかりの映画というのでめずらしく7割くらいは入っていました。

映画が始まって題名の字幕を見て驚きました。“Kirschbluten & Damonen”これってドイツ映画じゃないか。そうでした。

まさに舞台はドイツ郊外の森林に囲まれた小さな町。ドイツの今の世相を忠実に描いているようでした。成績優秀でドイツ銀行の日本駐在だった青年カールは結婚して一人娘を持っていますが、破綻をきたしてアルコール中毒になっています。

妻からも見放され孤独な生活に落ち込んでいる所に、不思議な日本女性ユウが訪ねてきます。演じるのは日本では知られていないが、ドイツや世界で有名な舞踏家入月絢です。かって日本にいて日本趣味のあるカールの父親を在日中に世話をしたことのある茅ヶ崎生まれの女性です。その父が亡くなった時にカールも顔を知っているだけなのですが、亡くなった父の墓参りをしたいとわざわざドイツにやってきたのです。

そこから不思議な、奇想天外な彼らのまつわる異界の話が始まります。

命にかかわる事故に遭って後、元気になったカールが再び来日して、ユウがいた茅ヶ崎館を訪ねてきます。茅ケ崎きっての老旅館茅ヶ崎館の女将を老母樹木希林が演じています。ユウは自殺していました。茅ケ崎の浜降祭を見た後カールはゆうの幻も見て、危うく命を失くしそうになりますが、もうすこしいきてみようと踏みとどまります。

こんなあらすじの暗いドイツ映画でした。

樹木希林さんはこの映画出演後まもなく亡くなられたそうです。
私自身“会議は踊る”という古いドイツ映画を見た切り、久しぶりのドイツ映画をみて、興味津々で鑑賞しました。この映画は、あまり評判が高くなさそうで日本各地で上映されないようですので、ここで紹介したくなりました。

 追記

この紹介を掲載するとさっそく一通のメールをいただきました。暗いドイツ映画とあるが、どのように暗いのかとお尋ねでした。確かにそのあたりは何も書いていませんので補足させていただきます。

主人公カールはユウに乞われるままに、今は誰も住んでいない田舎の実家に帰っていきます。両親の墓にも詣でます。その帰り道に、題名にもあるDamonen（悪魔たち）、黒いもじゃもじゃの毛をかぶった集団がやってきます。ユウは日本ならさしずめナマハゲ集団とでも思ったのでしょう。よろこんで近づいて行きます。カールは大声で危ないから近寄るなと叫びますが、たちまち二人はその悪魔集団になぶられて、カールは首に傷つき血だらけになってしまいます。この黒いもじゃもじゃは、その後も壊れかけた実家に時々現れて脅します。

それよりももっと異常なのは、この家に両親の亡霊が常在しているのです。カールとあるいはユウとの対話でカールの幼い時の思い出がよみがえります。父はナチスの将校と一緒にいたりします。この映画は同じテーマの前作があるようですが日本では公開されなかったので、この父とユウとの交遊はよく分かりません。しかしユウはこの父を看取ったことをカールにつげ、また亡霊の父も「親切にしてくれたのはユウだけだった」と述懐します。

カールは末っ子で母が溺愛したので、上の姉や兄からいじめられて育ち、そのせいもあり弱い性格のまま育ったのです。

久しぶりに故郷に帰ったカールですがその姉とも再会します。姉はみあげ物の店で働いています。姉の夫は今ネオナチ党の幹部で金を党につぎ込んでしまうから金に困っています。またその長男が父との軋轢のためか引きこもりになっていると悩みをつげます。カールとユウはその家を尋ね、ユウは長男の部屋の前でうずくまって「命短し恋せよおとめ」をつぶやくように歌います。引きこもっていた少年はそっと顔を出します。なんと父への腹いせからか、額にハーゲンクロイツの入れ墨をしているのです。ドイツも引きこもりが問題なのですね。

姉は遺産金がほしくて、無人となった実家の土地家屋を売りたいのですが、なぜかカールが承知しないのでそれもいざこざの種です。このあたりは日本にもある話ですね。

カールは夜夢で、引きこもりの甥子が自殺する寸前にあることを察知して、夜中にもかかわらず姉の家に飛び込んでいきます。無理やり飛び込む引きこもりの甥の部屋、彼はまだ生きていました。激怒する姉と夫からカールは追い出されてしまいます。雪積るドイツの森林の道を逃げるように走り、倒れてしまいます。このドイツの森林のシーンは村尾行一氏のドイツの林業の本で教えられているので、かくもあるかと思いその美しさに眺めやりました。この夜彼は凍死状態で発見されるのです。カールは死を宣告され人口呼吸器を外されようとします。どこかでユウの必死の祈りの声、カールは死んでいなかったのです。

それから何年経ったのでしょうか。元気になったカールが茅ヶ崎のユウを訪ねてくるのです。

ここからは先に書きましたね。樹木希林さんの祖母の一言「あなた生きてるんだから、幸せになんなきゃダメね」

カールは茅ヶ崎海岸でユウの亡霊の誘いに死を避けたのでした。