第一回　　卒業式訓示

　　　三沢　　糾

　自由とは自我の生命の活動領域を指すのである。諸君がヨリ大なる自由を有つとは諸君の自我の活動領域の拡張を意味するのである。所謂目覚めたる諸君の自我、独立自主権を主張する諸君の自我は、これよりして自から其生命の内容を展開して、自から活動しつゝ成長しつゝ行かねばならぬのである。即ち益々自己の知識経験を豊富にし、益々己が理性を明らかにし判断力を鋭くし、益々其の戦闘征服の力と抵抗力を旺盛にし、益々其の情報を深く清く高くし、益々其の理想を遠大にし、益々其の長所を修養研鑽助成し、以てその到達しうべき最高点まで進化発展已まざるべきである。もしこの生々溌剌の自我活動がなかったならば、折角諸君に与へられた自由は死んで仕舞ふのである。最高理想に向っての自我の活動、そこに自由の生命があるとするならば、遊惰放逸はこれを自由の死であるといはねばならぬ。

　人間に二つの教育がある。その一は他人からうける教育で他の一は自分が与へる教育であるとは諸君が曾つて学んで知って居るところである。今や諸君は第一の教育に頼ることをすてゝ自ら第二の教育に自立しなければならぬ時が来た。これよりは最早責任者は父兄でもなければ教師でもない。諸君、諸君自身が、自己の教育にどれだけの熱心と努力を払ふか、如何なる教育を自己に与ふるかといふことが諸君の運命を決定するのである。

　自由とは又機会の別名である。それは生の機会であると共に死の機会である。天へ登る機会たると同時に奈落へ堕つる機会ともなりうる。あらゆる可能性を蔵するもの、これ自由である。諸君は果して此の自由を如何に用ひんとするか、之を如何なる機会たらしめんとするか、之を以て如何なる可能性を実現し来らんとするか。学問の進歩、品性の向上、身体の健康、一に係って自由の活用善用にある、私は諸君の健全なる自我愛と聡明なる理性とに信頼し中学卒業と共に急に拡大せられたる自由が諸君向上の坦々たる一路たらんことを期待するものである。