“成　城　に　住　ん　で”

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　石原靖造

 

編集長にお願いして、又皆さんにお目に掛かる機会に恵まれました。暫しお付き合い下さい。

 

皆さんは東京の成城と聞いてどんな印象をお持ちでしょうか？

ここは関西の芦屋、東京の田園調布と並んで日本の三大高級住宅地と言われており、富裕層、有名人に属する人達の邸宅が沢山あります。

加山雄三、中村雅俊、石原裕次郎（今は北原三枝）、所ジョージ、役所広司、渡辺徹・榊原郁恵夫妻、と言った芸能人から、小沢征爾、大江健三郎、秋元康、野球の張本勲、と言った名士まで、私の聞きかじりでもこれだけ並びますから、どれほど多くのセレブ達が居られるか想像して頂けます。

 

でも今日はこんな事自慢する為に書き出した訳ではありません。人生も八度目の戌年を迎えるまで、自分なりに一生懸命生きて来たつもりが、気が付けば自分は小さな賃貸マンションのやもめ暮らし、片や周囲は豪邸だらけと言う紛れもない現実に何とも言い様の無い虚しさを覚える事があります。

これって今政治で持ち上がってる格差問題に当たる様な気がしてならないですが、誰にどの様に文句を言えば良いのか、悪い頭で考えても分かる筈がなく、唯周囲の豪邸を恨めしく眺めるのに終始する毎日です。

 

元々何かの才能がある訳ではなく、サラリーマンを無事勤め終えた身分では、富裕の二文字に近付ける筈はない訳ですが、それ以外にも自分に固有の事情が無かった訳ではありません。

大阪を出発点に羽衣―千葉の南柏―メルボルンーシドニーー東京練馬―千葉柏―大阪箕面―成城と八回引っ越ししています。“引っ越し貧乏”と言う言葉がありますが、どうもこれに当て嵌まるのではと妙に自分で納得している処です。

家内の介護で箕面から柏に帰れなくなった際、少しでも金目の物を処分しようと“ピアノ売ッテチョーダイ”に電話しましたら、型が古い上にマンションの三階から降ろす費用二万円払って貰わないと処分出来ないと言うのです。後日大枚払って家財を丸ごと処分しましたが、高価だったピアノが分解されて弦の銅線だけになり、これだけが金目ですと言われた時は本当に涙が出ました。

 

折角人生最後の住処と決め込んだこの地で、こんな負の側面ばかり思い浮かべるのではなく、何か誇れるものはないか探して見ました。

例えは余り良くありませんが、ゴルフのロングホールでティーグランドが我が家としましょうか。少し飛ばす人の第一打２００米位までに、左隣のローソンに始まり、右が東急リバブル、次いでミスタードーナツ、１００均、大和証券、りそなBK、不二家、三井住友BK、ソフトバンク、スターバック、上島珈琲、バスターミナル、成城学園前駅があります。次の第二打１８０米にはスーパー三軒、ケンタッキー、マツモトキヨシ、松屋、すき屋、Au、野村証券、みずほBK、交番、JTB、三省堂書店、郵便局、整骨院、あと冠婚・葬祭屋さんもあります。最後のショット１００米先のグリーン辺りが区役所、成城学園、病院です。この間に各種お医者さん、レストラン、居酒屋、コンビニ、塾などお店が沢山あります。

自転車で１０分位の所にゴルフ練習場、図書館もありますが、流石に映画館、美術館まではありません。私があってほしいもので無いものが一つだけあります。スポーツジムです。電車で一駅行かねばなりませんが、怠惰が染みついた所為か、中々その気になれず実現していません。

 

この様に日常生活に必要なものは全部揃ってますので、非常に便利ですが、この便利さを丸ごと帳消しにするのが私のゴルフ場です。茨城県の笠間市にあるため、当日は朝５時起床、成城を６時に乗って新宿へ、更に上野に出てから特急で一時間、クラブバス２０分を加えますと３時間強掛かり、９時半のスタートにやっと間に合います。勿論帰りも同じ時間が掛かります。新幹線で大阪までゴルフに出掛けるのと余り変わりません。

 

この齢では行くだけでもうくたくたで、ゴルフをエンジョイするどころか毎回大叩きでいらいらは募るばかりで、身体にも精神衛生上も全く良くありません。

“そんなにしんどいゴルフなら止めたらえゝやないか”と言われそうですが、開場以来４０年掛けて培った仲間達、四季折々の姿を見せて呉れる美しい自然、今では推されて役員の任、と言ったゴルフ場との結び付きを簡単に断ち切る事は出来ず、月２回楽しくも辛いゴルフ場通いは当分続く事になりそうです。

 

これまで書きました様に超便利と超不便の狭間をさ迷いながら、成人病を抱えた老体に鞭打って何とか生き延びてる訳ですが、これからは少し発想を変えて、もっと気楽に他人の豪邸は羨むのではなく目の保養に、又ゴルフはスコアーではなく、プレー出来る事に感謝して体力続く限り歩いて行く事が出来ればと思っていますが、果たしてそんな達観した様な生き方が凡人に出来るか、自信は全くありません。

以上、人生も終盤を迎え、こんな生き方してる奴もいるんだと読み流して貰えれば幸いです。

 

最後に成城の桜と家並みの写真を載せさせて頂きました。成城の雰囲気を少しは感じて頂けると思います。ご希望あれば何時でもご案内致します。

拙文にお付き合い頂き有難う御座いました。

　　　　　　　

　　平成３０年5月吉日　　　　　　　　　　　　　（完）