高津五期俳句会 第二十一回 平成十五年四月七日
竹 尾 嘉 文 選
秘史秘めてし二上山の霞けり 今 井 由紀子
花びらをとどむすべなき春あらし 塩 田 亘 子
花冷や濠のさざ波幾重にも 浅 香 さとみ
食卓に桜一枝酒うまし 久 貝 貞 子
花咲けどはるか彼方に戦火あり 村 島 栄 三
艶やかな葉うらにひそと藪椿 松 浦 武 子
花影の川面をゆらす鯉のむれ 上 島 晃 子
結願を約す旅立ち春彼岸 安 藤 義 信
天を指し枝のびやかに春いぶく 小 田 一 栄
天空に咲き定まりし白木蓮 岡 峰根子
選者当日吟
初花に早や雪洞の灯りけり
今回も楽しい素晴らしい作品が発表されました。けれど、これはこうしたらいいのだけれどと思う句や、ここを少し上手く言えないかしらという声のあったのを一寸取り上げてみましょう。
花咲けどはるか彼方に戦火あり
「はるか彼方、ではなくもっと身近に感じられるのではないかしら」との発言、確かに距離的には彼方ですね。しかし、戦争そのものは身近に感じられます。うーん、むつかしい。
彼方なる戦火の散らす桜とも
花散るや戦火に散れる人の惜し
花冷や戦は遠きものならず
独善と傲岸のたたかひ春無惨
この句も同じ戦の酷さを詠っておられるのだと思います。詩としては核心をついたいいものです。が、俳句としは中七が字余りになってます。そこで意味が通じるかどうか？
独善と傲岸が生む春嵐
独善によるたたかひや春無惨
傲岸が春の嵐を巻き起こす
風遊びミモザゆれつつ香を放つ
ミモザの生態をよく見ておられます。残念なことなのですが、風かミモザかにポイントを置きたいですね。そうするとミモザの咲いている場所が入れることが出来ると思います。
教会のミモザ香りて風に揺る
教会のミモザ揺れつつ香りけり
姑との言葉少し春彼岸
彼岸は春と秋にありますが、俳句では彼岸は春の季題になっています。そして、秋は秋彼岸と頭に秋を付けます。言われることはよく分かります。ですから句としては成功ですね。ただ、上五が姑だと六文字だし「はは」だと四文字になります。
姑と会話疎となり春愁ふ
春風にゆれる当尾のつり野菜
これは田舎の無人販売店の風景でしょうね。だけど、つり野菜が干し大根や干し菜のような感じに取られそう。当尾という地名も必要ないと思います。
うららかや野菜吊して無人店
ふり返り桜めでるや車内客
電車の中から桜を見て喜んでおられたのでしょう。一瞬のまに通り過ぎる花、だからより素晴らしく感じる。客は省きましょう。あなたが車窓に見られた桜のことにして。
爛漫の車窓のさくら愛でにけり
一瞬の車窓の花を惜しみけり
華に融けて天王寺阿弥陀堂より旅立ちぬ 合 掌
亡くなられて沢山の供花に囲まれその方は花の精のように弥陀の浄土へ旅立たれた、というように拝見しました。短詩としてはいいですね。情感が出ています。残念なことに季題がないのです。季題を入れてみましょう。
花吹雪く阿弥陀堂より旅立ちぬ
花吹雪く阿弥陀堂より浄土へと
※ 「華融」は戒名でした。
供花に囲まれて旅立つという風景と共に、その名前を是非折り込みたかったのです。
更に、故人は長年四天王寺の近くに住み、そのお堂で式が営まれたので「天王寺」「阿弥陀堂」
という言葉は不可欠でした。 安藤
ものの芽に山動き初む気配立つ
句としては充分なのですが、気配立つにちょっと引っかかるのですが、との声あり。作者もちょっと気にしておられた。
ものの芽に山動き初む気配かな
いろいろ訂正したりしましたが、私の考えが全てではありませんので、どうか参考程度に思って下さい。それから、季題で春を付けなくてもいいものがありましたので。
春うらら → うららか 春彼岸 → 彼岸 お彼岸 お中日
春霞 → 霞 鐘霞む 春朧 → 朧 草朧 鐘朧 朧夜
読み難い季題
白 膠 木 ヌルデ 郁子の花 ムベノハナ
紫 荊 ハナズホウ 雁 来 紅 ハゲイトウ
満 天 星 ドウダン 黄 心 樹 オガタマ
海 芋 カイウ（カラーのこと） 梅 桃 ユスラウメ
石 蓴 アオサ 茘 枝 レイシ
辛 夷 コブシ
