０３．０６．１５

　　　　　　　　　　　　　　　久野　義雄君を偲んで　　　　　　小国　益男

　梅の花もほころび、春のきざしを感じる２月に久野君宅へ電話をした。

　　「主人は先月心筋梗塞で亡くなりました。

　　　　　　　　大阪での４月の同窓会で皆様方にお会いできるのを楽しみにいた

　　　　　　　　しておりましたのに……」

　悲しみに包まれた奥方の言葉を受けて、本当に驚き、呆然とし自失し

た。

　糖尿病を始め心臓疾患を患い、病気の治療に専念されている旨は彼の

言葉から承知していたが、医療技術の進歩している現在　早期に快復さ

れるものと信じていただけに、まことに　暗然たる思いで　ご家族の皆

様のお心の内を察しますとき、何とお慰めしたらよいのか　言葉に　苦

しみます。

　今は　唯ご冥福を心よりお祈りいたし、来る　新盆には　参上して　

ご焼香をさせて　戴こうと考えている。

　知において鋭く　感性豊かで燃えるごとしと　評された　

彼　久野　義雄君ですが、駘蕩たる　春風のような人柄であり　慈父の

ような　御人で　あったと思う。

　思へば　大阪の旧家に生まれ、青春の日々を文学に志して、早稲田大学

に学び高鳴る純粋な血の騒ぐままに歩を進めて映画・演劇の世界に入り

　自らが選んだ道を　まっすぐに　歩き通した。

　　久野　義雄君（芸名　團　巌）は映画人として　天性の資質に加えて

　鍛え磨いた演技の力で　役を創造する男であり　素晴らしい演技派俳優

であり、芝居も映画も　僕の人生の一部ですよ　と小さな　笑いをして

いた。

　彼の一生は　尊敬と羨望に値する己の節操を貫き通した素晴らしき友で

あり　見事な生涯であったと思ふ。

　輝きを一身に集め、誰からも愛され、惜しまれて　彼は亡くなった。

　最後の別離に居合わすことができなかったが、実に安らかな眠りであ

ったと、お家族の方から聞く。

　生ある者は必ず死あり、始めあるものは必ず　終りあるは　自然の道

なりと古人は　言った。

　常に　人生を見詰めて生きていた彼も　又　同じ　心境であって　静か

に死を迎えたに　違いない。

　彼の舞台の幕は　静かに降りて逝く。

　　今は　ただ　安らかな瞑目を願うばかりです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　合　　　　掌