０８．０９．０５

　　　　　　　　　　　　　　　　　　アインシュタインの手紙

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　太田　隆次

　どこかの国の法務大臣が、「友人の友人にアルカイダがいる」といったそうですが、私の

友人の友人の義兄（故篠原正瑛教授）が晩年のアインシュタインと友人でした。その義兄は

日本人でありながらドイツの大学でドイツ人にドイツ語で講義をしていたほどドイツ語が

堪能でした。

　アメリカのプリンストンに移住していたアインシュタインが原爆開発にかかわったという

ので日本人として許せないと抗議の手紙をドイツ語で送ったことから、二人の文通が始ま

り、心を許しあう仲になりました。アインシュタインからの合計６通の手紙は広島平和記念

資料館に寄贈されて陳列されています。しかし、日本語訳はついていません。

　アインシュタインは昭和30年に、この義兄は平成13年に他界したことから、義弟に

あたる友人がその日本語訳を読みたい、出来れば公開したいので誰か日本語に訳して

貰えないかというので、ドイツ語が読める人がまずあらまし日本語に訳し、達筆で

判読不能部分や意味不明の部分は私のミュンヘンにいるドイツ人友人にスキャンした

メールをやり取りして英訳して貰い、それをつなぎ合わして何とかこの8月末に下の

ように日本語訳を作りました。

アインシュタインの読みにくい直筆のドイツ語の手紙も最後につけました。

　アインシュタインの戦争観や批判されたことへの学者らしい率直な反駁、助言などが

窺えて興味深いものがあります。奇しくも、この手紙は私たちの高津高校卒業の昭和28年

に書かれ、２年後の昭和30年にアインシュタインは亡くなりました、残りの5通の手紙も

公開して貰って、日本語訳をつけて陳列して欲しいものです。

               アインシュタインの手紙（昭和28年6月23日付）の日本語訳

私は断固として平和主義者ですが、絶対的な平和主義者ではありません。つまり

私はあらゆる場合に暴力は反対ですが、敵が生命の抹殺を自己目的としていれば暴力を

用いてもよいと考えます。

　私は日本に対する原爆使用は常に有罪と考えていますが、この致命的な決定を

阻止するために私は何も出来ませんでした。日本人が朝鮮や中国で行なったすべての

行為に対して、日本人のあなたにも責任があると言われるのと同じで、私はほとんど

何も出来なかったのです。

　私は、ドイツ人に対して原爆を使うべきだと主張したことはありません。しかし、

ヒトラー政権下で、ドイツ人が独自に原爆開発に成功し保有することは、何としても

阻止しなければならなかった。あの時代にはもちろん、そういう恐れがあったのです。

　私はロシアに対する戦争だけでなく、あらゆる（上述のように生命の抹殺をする

ことが目的の敵には別ですが）戦争に反対です。

　先だって言われていた彩色木版画を頂きました。有り難うございます。

                                                            敬具

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　アルベルト　アインシュタイン

     追伸：あなたは、他人やその人の行為については十分な情報を手に入れてから、

自分の意見を述べるように努力すべきでしょう。あなたは日本で、私を批判しょうとして

いますが、こういう礼儀を欠いた態度がどうみなされるか、よく考えてみて欲しい。

　                                        エピソード

アインシュタインには天才ゆえに多くのエピソードが伝えられています。少し紹介しま

しょう。

       まだノーベル賞受賞が決まっていない1919年に離婚しましたが、離婚の条件にノーベル

   賞が 取れたら慰謝料として賞金を全額渡すというのがあって、2年後の1921年にノーベル

   賞を受賞し、約束通り賞金を全額渡しました。

     滅多に笑顔を見せることがなかったのに、舌を出した写真をよく見かけますがあれは

  本当の写真です。

    1951年3月14日の72歳の誕生日にカメラマンに｢笑って下さい｣と言われてこういうポーズ

  を取り、大変気に入って9枚焼き増して親しい人々に配ったそうです。この写真は1951年度

   のニューヨーク新聞写真家賞のグランプリを受賞、またアメリカの切手にもなりました。

     数字や記号を記憶することが大の苦手で、記者会見で光速度の数値を答えられず，記者


　　から笑われた時、「本やノートに書いてある数字をどうして憶えないといけないの

　かね」とやりかえしたそうです。

  相対性理論について聞かれ「熱いストーブに1人で手をあてている1分間は1時間ぐらい

　長く感じますが、可愛い女性と一緒だと1時間が1分間と短く感じますね。これが相対性

　理論です」と答えたそうです。

   バイオリンの名手で、1921年に日本に来た時、アヴェ・マリアなど数曲を演奏した

　そうです。

  モーツアルトが大好きで、ある雑誌のインタビューで「あなたにとって死とは」と

　尋ねられて「それはモーツアルトが聴けなくなることです」と答えています。

  来日中に人力車に乗ることをすすめられましたが、非人道的奴隷労働と乗車を

  断りました。

      同じノーベル物理学賞受賞者湯川秀樹博士と面会した時、原子爆弾開発に関与

　したことを悔やみ、涙ながらに謝罪したと言われます。

        1955年4月18日にプリンストンの病院で亡くなりましたが、遺志により、

　墓や記念館をててはならない、火葬にして遺灰は空中にばらまくこととされました。