０８．０３．２３
「新世界」笑いと涙の舞台模様 その ２
ー戦後芸能復興のひとこまー
千葉 宣嗣
管理人さんに巧く乗せられまして恥の書き捨てだと考えました。
Ｍissデビー デュバル。ストリッパーの名前です。アメリカ人、25才、と言って居りましたが、パスポートを盗み見て、
オーストラリア人、28才、少々サバを読んでいる事をしりました。
なかなかの美人で、外人にしては余り大きい方でなく朗らかで、狭いながらも楽屋ひと部屋を貰って、初日から
小ビール１ダースを持ち込み２,３本呑んで舞台に出て行く有様で、私にも呑むように言うのですが、楽屋とは言え
裸の美人が目の前にいるのには慣れるまで目のやり場にも困ったもので、多少の不安を感じていましたが、さすが
東南アジアを、股にかけているダンサーだと思わせる踊り振りに観客達も拍手喝さいで、当時の日本のストリップの持つ
暗さが微塵も無く、さすが１日100ドルだけの事は有ると感じました。彼女は踊っている中でサービスの積りか履いて
いるショートパンツをチョッと下げて金髪を見せようとすると、観客が騒然と成り、当時の警察はそれでも取締まりの
対象にするから余りサービスしない様と専務から注意があったくらいに本人は大らかでした。
夜、舞台がハネてからが大変でした。飲みに連れて行けとせがまれて、ミナミの自分の知ったバーへ連れて行くの
ですが、もうひとつ面白くないのか浮き立ちません。遅くまで遊んで翌日のショーに穴を空けられても困るので、宥めながら
当時、中ノ島に有った、新大阪ホテルに宿泊していたので送って行ったものです。しかし無理に４回興行を頼んだ手前、
ご機嫌をそこねられてもと考えていましたが、3日目ごろでしたか、ゲイバーへ連れて行けと頼まれましたが、私にはそんな
経験もなく仕方ないので知り合いのバーのママより教えて貰って行く事にした店が「おひろ」と言うその道では知られた店でした。
其の時代の宗右衛門町は中程に大きくへっこんでいて、真ん中に庭園の如く回遊式に小さな池を巡らし、ぼんぼりが
建てられて居りそのぐるりに粋なお店が並びなかなかの風情が有りましたが、その入り口近くに有りました。
このバーのママ・おひろ姉さん？は、かってある事で顔を切られたと言う事で知られた人で、私もその話は知っていましたが、
まさかその店へ行く事に成るとは思っても見ませんでした。
おひろママは“エレガントな美人”で、切られた顔の傷も全く解らず話はほんとかなと思ったくらいでした。
それからは度々この「おひろバー」へ行きましたが、正月９日でした。タクシーを拾いミナミへ行く途中、窓の外を眺めていた
彼女が突然"フエステバルツリーが欲しい”と言い出して、何事かと思い見たら丁度、宵戎祭りにて、お参りの人々が
戎さんの飾りの付いた笹を手に手に持っているのを見て言っているのでした。車を降りて戎さんにお参りし「笹もってこい」
の掛け声に彼女は喜んで買った笹を持って又「おひろバー」へ行きました。
呑みながら彼女とダイスの賭けが全く歯が立たず負け続けていたら、突然に見知らぬ紳士が親しげに彼女へ流暢に英語で
話しかけて来て、彼女も驚いた風でも喜び盛んに盛り上がっていましたが深夜にも成るし、後１日の興行で穴を開けてはと
無理に立たせて車を呼び新大阪ホテルへ送って行きました。彼女も少々飲み過ぎたか酔っていたので部屋まで付き添い
玄関まで降りて表へ出たら「おひろバー」で出会って親しく話していた紳士の二人が立っていて振り向くと彼女も後ろに
下りてきていました。どうも話が出来ていて、さらにキタへ呑みに行く話が出来ていたようです。
親しく話をしていた紳士の方が待たしていたタクシーに乗り込み。彼女をも車に乗せようとしたので私はその紳士に
「彼女は明日で楽日だから連れ出さないで欲しい」 と頼んだら、「何！ぐずぐず言わんとマネジャーは黙っとれ」 と威嚇する
様な言葉が飛んできたので私も未だ若く血気盛んの頃 「何を、俺はマネージャーと違うぞ誰に物言うとるんじゃ」 とやり返し、
酔いも有り「大阪の人間舐め取ったらあかんぞ」 と胸倉掴まえて車から引きずり出して一発殴りつけた。
慌ててもう一人の男が止めに入るし彼女も泣き喚くし、殴られた紳士は 「知りませんでした。済みません」 と途端に
謝られて私も引っ込みが付かず 「彼女も行きたがってるから連れて行け、明日、穴を空けたらお前の責任だから、
覚えとけ」 と言い二人を強引に車に押し込み、私を止めた男とつらなって帰る事にした。
帰り車の中で”「貴方を送るから、何処まで」 と聞いて名前を聞いたら「Ａと言います。今、大劇に出ておりますので、
色々ご迷惑をかけました」 と謝られたが、「もう一人の人の名は」 と聞くと 「Ｙと言います」 と答えてくれ、大劇裏で降ろした。
翌日、専務の家へ昼飯食べさして、と遊びにゆき昨夜の武勇伝を話したら、奥さんから「そら大変や、Ｙ、言ったら今はやりの
人形劇の声色を吹き込んでる人や」と言われていささか恐縮してしまった。
更に送って行ったＡ氏は其のとき大劇に出演していた ”シックスジョーンズ”のメンバーのひとりだと知って益々引っ込みが
付かない武勇伝であ合ったと今更に反省しております。