０５．１２．１６
ゴ ル フ 色 々
津浦 嵩
御蔭様で今年の３月、無事古稀を迎え、光雪会や敬老招待ゴルフに出させて貰えるようになり大変有難く思っているが、何と云っても驚き且つ、敬服させられたのが、７０歳以上の先輩諸氏が御壮健であるという事である。本当に元気付けられるし目標とさせて頂きながら、気持ちも新たにシルバー・ゴルフ・ライフを大いにエンジョイしたいものだ。現役の頃は、原則ウイーク・デイゴルフは出来なかったので、海外での時差呆け解消のゴルフを入れても、精々年６５ラウンド位いだったが、一昨年から歳の数以上のラウンドを目指し、昨年は８５ラウンドと楽々目標を達成出来た。 今年になって、家内や娘達から、もう直ぐ７０歳になるのだから、寒い時や暑い時は回数を減らした方が良いのではと、口喧しく云われると、逆に頑なになり、自分の体は自分が一番判っているのだから、しのごの云うなと言ったのが悪かった。２月初旬、友人に誘われる侭に城陽でプレイしたが、インに入って鉛色の雲が低く垂れ込み、冷たい風が容赦なく頬を吹き付け、しかも混んでいてフェアーウエイで随分待たされ、急に１６番で顔に違和感を感じつつも何とかクラブハウスに辿り着いた。化粧室に駆け込み鏡を覗いたら顔面蒼白、左瞼が閉じず眼球が半分程下に潜り、左唇が半開きで唾液が垂れ、遂に左耳奥から頭部後方に激痛が走り出した。 友人に罹り付けの病院に送って貰い、救急治療室で早速CTを撮って医師の診察を受けたが、幸い脳に梗塞等の異常無く、当番の医師が内科だったので、はっきり云えぬが９９％顔面神経麻痺と思うので、直ぐに耳鼻咽喉科に入院するようにとの所見だった。担当医師に依ると、かなり重症、最短一ヶ月要入院、少し後遺症が残るかも知れないとの見立てであった。この病気の原因は５０％がヘルペス等ウイルスに依るもの、残り５０％は原因不明で田中元首相のように強度のストレスや、スキーやゴルフ、昔は汽車の窓から顔を出して冷たい風に曝されると突如発症するらしい。治療としては、ステロイドの点滴と顔面マッサージであるが、ステロイドの副作用が厳しい。幸い入院は１５日間ですみ、副作用による影響も３ヶ月で克服出来た。
話は変わるが、私がゴルフを始めたのが昭和３６年、入社３年目の若造がゴルフなどとんでもないという職場の雰囲気だったが、部長が茨木のシングルで大いに推奨して頂き、自ら手取り足取りして茨木の練習場で手解きをして貰い、又マナーやルールを徹底的に教え込まれた。勿論ゴルフ用語もチンプカンプン、ならばと、日曜日の午後３時からハーフだけ一緒してやるから着いて来いという事に相成った。なけ無しの貯金を叩き、ハーフ・セットにキャディバッグ・シューズにズボン等急ごしらえでおっかな吃驚茨木のクラブハウスに馳せ参じた。コースに人影は最早無いが、スロープレイはいけないと常に２-３本のクラブを握りしめ、コースを駆け巡り、ストロークの計算など出来る訳が無かったが、あっと言う間に９ホールが終わった。唯、西１４番１５５ヤードのショートホールでピン２ヤードにオン、これを１パットで沈めて初バーディを取った感激は未だに忘れられないし、これがゴルフに病み付きのきっかけになった事は間違いない。
ところで私は未だホール・イン・ワンを達成した事が無いのが残念極まりない。昭和４３年からゴルファーズ保険に入っているし、多数の記念品も頂戴したし、５人のパートナーのホール・イン・ワンも目撃している。入る時はいとも簡単に入るものだし、あわやのO・Bボールが木に当たってカップインという珍プレーも見た。一番カップに近かったのは１０数年前、アメリカのお客と大口契約が成立、サインを終わったところで、先方の社長と購買部長が急にゴルフをやろうと言い出し、既にペブル・ビーチを仮予約してあると上機嫌だったので、断る訳にもいかず二つ返事でOKした。太平洋に突き出した名物ホール、１４３ヤードを７番アイアンで打ったところ、我ながら見事な孤を描いてピンの手前に落ち、其の侭カップへと向かった。逆光で且つ、霧で若干霞んで居り、しかも潮騒で音が聞こえ無かったが、確かな手答えがあった。現に社長が｢ユウ ゴット イット。コングレチュレイシヨン！｣と叫び握手を求めて来た。遂にやったと小躍りしつつも、待てよ保険は海外でも適用されるのかなとか、ウィーク・デイ・ゴルフは事前伺い制だから如何に会社に釈明しようかと詰まらぬ事が頭を過ぎっている中に、早くもカートがグリーン近くに到着、すかさず社長が｢オォ、ベリー ソーリー！｣と首を振りながら私の肩を叩いた。成る程、ピンの真後に１/３程カップを覗いているボールが非情にも横たわっていた。
練習は全く不熱心、兎にも角にも我流で４０数年間ゴルフをして来たが、６５歳の時、取引先の会長の格別のお計らいで、大迫たつ子プロと木村敏美プロに１ラウンド御一緒させて頂く機会を得た。ラウンド中は却ってややこしくなるので、ラウンド後ワン・ポイント・レッスンをしましょうという事になり、グリップやフォームについて若干修正して頂いたが、大迫プロからは、失礼ながら、もう、お歳なので、今更治しようが無いし、力まずリラックスして、シルバーゴルフに徹したら良いですよ、強いて言うならもっとヘッドを効かしなさいとの御託宣であった。すかさず、どうすればヘッドが効くのですかと尋ねたら、彼女笑って曰く、私の云っている意味は、方向性はまずまずだから、もっと頭を使って戦略的にコースを攻めなさいと云っているのよ、との事だった。それ以来、今迄あまりにも無造作にショットをし過ぎたのかなと、色々考えて打つ様心掛けているが、思うように行かぬのも、亦、ゴルフの楽しさと割り切り、寝付きの悪い日は寝床で、アアでもないコウでもないと考えていると直ぐに寝付くし、呆け防止にもなっているように思い、大迫プロのアドバイスに感謝している。
いずれにしても、病院のベッドで点滴を打ちながら、窓越しに陽春の空を眺めていると、宝塚の情景が走馬灯の如く目に浮かび、意が叶わぬ自分の体に切歯扼腕した日々を思い出すにつけ、ゴルフの出来る事が、健康の何よりの証左と考え、無理をせず常に健康との距離を測りながら、末永くプレイ出来る事を祈るや切なる今日此の頃だ。
＊（所属している宝塚ゴルフ倶楽部から寄稿を依頼され、会誌に掲載されたものです。ゴルフのつまらぬ私事はさて置き、関西も１２月に入って異常に寒い日が続いていますので、顔面神経麻痺のシルバー患者がこのところ増えているようなので、御参考までに敢えて投稿した次第です。）