芽が出てくるときが一番の楽しみです


「十六歳のとき台湾から引揚げてきて、日本
に食べ物がなくて親が農業やりました。長女
だったので一生懸命手伝って農業の楽しみを
覚えたの。収穫も嬉しいけど、まいた種が芽
を出すときが一番嬉しいですよ。種まいた後
雨だと、雨に打たれて種がとび出さないかと
夜も眠れませんよ。」　　　

と語る鈴木淳子さんは光陽の里の女性

仲間では長老のお一人。しかし毎日欠

かさず畑に出てきて一人鍬をふるって

汗を流している。掛川に嫁いできたが、

ご主人は根っからの国鉄マン。子育て、

母親の看病、二人の娘の出産の世話、

めまぐるしい主婦生活で、農業のことは

この五十年の間すっかり忘れていた。

  娘の産んだ双子の世話が終わってほっとした時、静岡新聞で宮城さんが「畑を

荒らしてはいけない」と光陽の里会員を募集している大きな写真入り記事を見て、

昔の楽しみを思い出した。

早速宮城さんに電話、貸してもらった畑の広さは一反。これが最小単位だという。

一人でやれるだろうか。宮城さんは大丈夫だという。主人は「やるなら一人でや

れ。俺は知らんぞ」。それでも「鈴木淳子農園・頑張っています」と畑の看板に

書いてくれた。

  「無農薬ですから、草取りと虫退治が一苦労です。ああすればいいか、こう
すればいいかと、教わり教わり隣百姓でやっています。でも結構たくさん
収穫があります。これまではたべきれない分は友達にもらってもらいました
が、今では『道の駅』を利用して売っています。そうなると苗や種を買って
いては駄目。自分で作ることにしました。ところがこれがとても難しい。
いい状態で翌年まで種を囲っておくことがなかなかできない。嫁の実家が
本百姓で、私がこんなことを始めたことを知って、嫁のお母さんが伊豆から
わざわざ種や苗を送ってくれるのですよ。有難くて。今のところ伊豆が頼り
なんです。」

   昨年十月、ご主人の入院で畑に手が回らなくなり、秋の種まきは断念した。

つくづく皆が健康でなければいけないと思う。

　「でも術後の経過もよく、まだリハビリ中ですが、毎日朝晩私を送り迎えして
   くれるのですよ。今年は秋の種まきの準備をしなければ。」

明るい笑顔がなんとも素敵だ。車でお迎えにこられたご主人の話し。

「私は最初は反対したんですよ。でもお母さんは昔農業をやっていたし、
なんといっても好きで研究熱心。薬を使わぬ虫除け方法に一生懸命です。
お母さんの作る野菜は本当においしい。みんなが健康で顔を合わせて
いられるうちは、畑を楽しもうと言っているのですよ。」