西鶴の作品を読んで

松原　和子

老後の楽しみに、ダンスを習っています。
毎週木曜日は、私のダンスデーで、午前と午後、二つの教室を『はしご』して練習に励んでいます。
その午前と午後の間のランチタイムがまた『楽しいひととき』です。というのも、食事 をしながら、
仲間の人達と賑やかにおしゃべりが出来るからなのです。
話題としては、他愛のないものが多いのですが、結構、男女の関係できわどい話もします。
そこが、また楽しいのです。

先日、何かの話から、ある男性が突然、「西鶴が書いているように、男女の仲は、生前からの
運命で決まっているもので、結ばれるべくして、結ばれるのだよ。……」と言い出して、
その場の女性軍から顰蹙をかい、盛り上がったことがありました。

この男性の言葉の真偽を確かめようと、『西鶴』を読んでみることを思い立ちました。
恥ずかしながら、私は、西鶴の作品には、どんなことが、どのように書かれているのか、
それまで知らなかったのです。
男女の仲の話ということで、『好色一代男』『好色五人女』『好色一代女』を選んで
読み始めました。
風俗描写などは、現代と殆ど変わらないところがおもしろく、「あゝそうそう！今と同じや。」
と共鳴したり、よく観察していると感心したりしながら、分かりにくい言葉もいっぱいありましたが、
うまく描かれた挿し絵の助けもあって、どんどんと読み進めることが出来ました。

今の世の中は、ＩＴブームで、目まぐるしく進歩・変化していっていますが、人の心も、風俗文化も、
そんなに変わるものでないことが思い知らされました。
まるでテレビのワイドショーを見ている気分でした。
というのも、どちらも不倫事件あり、ファッション情報あり、遊女物語ありと興味ある内容が
びっしりと盛り込まれているからです。

遊女物語なんて昔の話のようですが、若い子の援助交際なんかまさしく現代版遊女物語です。
それだけかと思っていたら、きょうのテレビワイドショーでは、今の若い主婦の中には
パートの１０倍の収入が得られるということで、夫に内緒で売春している人が結構いて、
その主婦が若さを武器にセーラー服姿になっている映像の現代遊女物語を見せていました。
『好色一代女』に出てくる遊女が、より多くのお金を得るためにいろいろ工夫するところや、
年を取るごとに役立たずになっていくところなどは、全く同じだなあと思いました。

　『好色一代男』の世之介の遊興については、これこそ江戸時代だからのプレイボーイぶりだと
思っていたら、これも最近のテレビのニュースの中で、幸福論若者編の特集番組をやっており、
その中では、世之介に負けず劣らずの成就回数を競い、その結果をコンピューターに入力記録し、
これを生き甲斐というか、生きる目標とし、それを幸福と感じる若者（大学生）がいる
ことを報じていました。

昔も今も、これらのことは、ごく一部の人のことですが、それを取り上げて本に表したり、
テレビのような情報機関に取り上げたりして、世間の人々の関心を呼ぶのですね。
人の心には、こういうものに興味を持つ本質があるのです.
本当に、人の心や人のやっていることは変わらないのだなと思いました。

男女の仲が生前からの運命かどうかの疑問については、結論として、
運命と思えば運命であるし、ただの偶然の出会いともいえるし、そこは取り方次第だと思いました。
読者が自由に考えることが出来るのが、小説・書物の良いところと思いました。
でも、とにかくこの疑問のお陰で、西鶴の本を読むことが出来ました。
今は、思いがけない大きな得をした気持ちです。